TOPページ > 障害者自立支援法コラム > 「自立」を支援するために
①【障害者の雇用促進を支援するために】
厚生労働省の障害福祉計画を見てみると、「障害者に労働をあっせんする⇒就労者が増える⇒訪問系やデイサービス系の人が増え、施設入所者が減る⇒現在福祉工場で働いている人3,000人に対して、5年後には雇用型の就労者が36,000人になる」という将来見通しが掲げられています。法律には、「働く意欲と能力のある障害者が企業等で働けるよう、福祉側から支援」すると明記してあります。5年後、こんな未来は本当に来るのでしょうか。
たしかに彼らに自立できる収入があれば、福祉サービスの対価も払えるし、社会人として税金も払うでしょう。しかし障害者就労の現実は、時給100円にも満たないような授産所での仕事がほとんどです。企業には一定割合の障害者を雇用する義務がありますが、目標達成には程遠いのが現状です。この理想と現実のギャップをどうやって改善するのか、違反企業名公表は現在でもやっていますが、画期的な方策は挙げられていません。
ある31歳の男性は、18歳の時から作業所で働いています。仕事は公園清掃や草むしりで、初任給は2,200円でした。なんと、日給たったの100円。13年目の今年、月給はようやく20,000円になりました。それなのに、自立支援法成立によって、施設利用料14,900円と食費14,300円(合計29,200円)を支払わなくてはなりません。彼の給料より多くなってしまいます。障害年金が支払われている人もいますが、もらっていない人もいます。いずれにせよ、一般の最低労働賃金をはるかに下回ったものでよしとする考えでは、本当の「自立」などありえません。
現在も、障害者の雇用型就労あっせんには、「ジョブコーチ」が就労先にまでついていって、当事者が慣れるまで1対1でケアしています。「就労者を36,000人にする」には、この「ジョブコーチ」も、延べ36,000人必要ということになり、その人件費はとてつもないものになります。かといって、この費用を抑制しすぎ、最初のケアが不十分になると、就労そのものがうまくいきません。実績向上には、今までの現場の取り組みをふまえ、地道に数を増やす努力を重ねるしかないのです。同時に、社会に受け入れられるため、共に働く健常者の理解と協力は大前提です。健常者にむけての啓蒙・研修は、広く普及させることが急務です。
②【働けない人の自立を支援するために】
どんなに働きたくても、働けない障害者はいます。そういう人の「自立」とは何でしょう。まず、家族を支え、自立させることです。
障害者の問題は、長い間「家族」で解決すべき問題と考えられてきました。「社会で支える」という考えが普及した今でも、負担は家族が背負います。福祉サービスの料金を払うのも家族、そのお金が払えなくてタダで介護するのも家族です。それでも「他人の手による介護」がようやく認知されてきた矢先、今までのサービスを受けられなくなったり、回数が減ったりすると、家族はまた家に閉じ込められ、社会との接点を失ってますます孤立していきます。家族が障害者の面倒を看るために仕事を失えば、無収入となり、最後には生活保護世帯になってさらに税金を投入しなければならなくなります。
4月の法律制定の直前に、「もう今までのような助成が受けられない、それでは生きていけない」と、行く末を悲観し、老いた親が障害者の子どもを殺して自分も死ぬという、いたましい事件がありました。「障害者自殺支援法」という囁きは、決して冗談めかした話ではありません。性急な法律の施行によって障害者の家族が疲弊し、彼らの「自立」を困難にしている現状をもっと深刻に受け止めなくてはなりません。障害者がまた昔のように公然と「やっかいもの」視されてはなりません。家族に障害者がいることが、決して「不幸」ではないと実感できるよう、5年後の改正が待たれます。
この法律が非常に複雑でわかりにくく、無用な誤解を生みやすいことも、急激な生活の変化も加わって利用者の不安をかきたてています。困った時にはどのような救済措置があるか、福祉の窓口は、孤立しがちな家族や本人を理解した上で、具体的な説明と支援ができるよう、より一層の努力が求められます。
【プロフィール・実績など】 2001年ダンスマガジンの「ダンス評論賞」で佳作入賞「同性愛の至福と絶望―AMP版白鳥の湖をプルースト世界から読み解く」。Femme Politique 52号(2006年6月末発行予定)「小沢一郎はいったいいかなる人物か」(取材・執筆協力)/「財政に強くなろう(2)」(講話まとめ)。障害者団体会報の編集に10年ほど関わり、年5回の会報を企画・編集・校正・入稿まで手がける。 |